白く降る(あかね)
なんとなく思い立って、窓を開けてみたけれど、
やはり、外は中とは全然違っていて、肌を突き刺すような空気が入ってくる。
「さむ・・・」
こういうときは自分で意識しなくても、思わず声に出てしまう。
薄暗くなった夕方。
空気はしっかりと冷やされていて、体は強張ってしまう。
窓際に立って、そのままあたりを見渡す。
前からは冷え切った外気、背からはもわっとした暖房に暖められた空気が流れ出て、
今自分の立っているところで交わる。
こういうとき、冬の懐かしさを感じる。
外は真っ白だ。
「いつの間に降り出したんだろう」
自分が部屋の中で作業をしている間、気がつかなかったが雪が降り出していたらしい。
粉雪をうっすらかぶって、薄暗い中にも目の前には白い世界が広がっていた。
はらはらと目の前を降っている雪を見ていると、ふと、あの景色が思い出されてきた。
雪の降る様は、あの桜が散る様に似ている・・・
白い桜。
あの人は、雪を見てどう思うだろう・・・?
懐かしそうに目を細めて、この雪を見るだろうか。
それとも・・・?
そのままベランダに出ると、全身が冷たい空気にさらされて、体が震える。
思いっきり手を伸ばして、白い雪に触れてみる。
それは、花びらと違って冷たく、手に乗った瞬間、白さを失い解けていく。
白い桜のないこの世界では、
この雪がその代わりとなれたらどんなにいいだろうか。
特に、
今日、こうして降る雪は聖なる雪だから。
「今日、降ってくれてよかった」
冬の夕暮れは早い。どんどん暗みを増していく。
そして、ぽつり、ぽつりと小さな電球たちが灯されていく。
そのイルミネーションは、白い世界にとても良く映え、人々の気分を子どものようにワクワクさせる。
時計は、そろそろ18時を指しそうだ。
もうすぐあの人が帰ってくる。
まだ、ケーキの飾りつけが残っている。
「早く、準備しなくちゃ」
カラカラと窓を閉め、カーテンを引こうとしたとこで、手を止め、そのままにする。
カーテンを閉めなかったのは、もう少し白い花びらを見ていたかったから。
パタパタと部屋の奥に消え、準備の続きをする。
聖なる夜に降る、聖なる雪。
あの人にははじめてのクリスマス。
異国の文化をなぜ、日本でも祝うのか不思議がっていたけど、
この日は、恋人達の日でもあるのよ、と思う。
それは、恋人達の勝手な解釈かもしれないけれど・・・。
それでも、たくさんの人たちが幸せを分かち合う日。
「できた」
イチゴを乗せ終わって、ケーキを冷蔵庫にしまおうとしたとこで、
ふと何か思いついて、チョコペンをもう一度持ち直した。
ケーキの真ん中に書かれた、Merry Xmas。
その下に、チョコペンで文字を書き加える。
「Merry Xmas あかね・よりひさ」
<終>
>BACK
|