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白く降る(頼久)

 

「今日は早く帰ってきてね」
と言われていたが、どうも少し遅くなるかもしれない。
先ほど、買い物をした分、いつもより遅いし、その上、雪で電車のダイヤが乱れている。
電車とは、とても便利なものだと思っていたが、意外とそうでもないらしい。

ホームには、冷たい風が吹き流れ、コートを着た身でも凍るように感じ身震いする。
(今日は人が多いな)
これから帰宅する者、これから出かける者で、ホームはごった返している。
なぜだか、いつもよりも慌しい。
そして、いつもよりも賑やかだ。
「今日はホワイトクリスマスだね」
後ろからそんな言葉が小耳に入る。
くりすます・・・
そういえば、愛しい少女がそれについて説明していた。
自分の世界にはなかった習慣だ。
愛しい彼女は、「大事な日なの!」と一生懸命言っていた。
きりすととかいう神様の誕生日だそうだが、
なぜ、異国の神様をここで祝うのだろうか。
生死を共にした友人にも、「クリスマスははずすなよ」と言われた。
プレゼントまで買えと言われたのだが、きりすとの誕生日を祝うのとどう関係するのだろうか。

遠くの方から強い光がやってくる。
電車がようやく来たようだ。
あと30分もあれば、彼女の待つあの部屋に帰れるだろうか。

ゆっくりと大きな音をたてて電車が止まり、扉が開く。
中に踏み出すと、暖房と、人ごみの暖かい空気が顔にまとわり付く。
なんと人の多いことだろう。まるで祭りのようだ。

電車がゆっくりと走り出す。
ホームを出た電車は街の中を走る。
大きなビルも、住宅もそして木々も、全て白く埋め尽くされていた。
ところどころ、たくさんの電球の施された木や建物が目の前を通り過ぎる。
確かに、
これだけ見れば、この日が特別なのだということがよく分かる。
くりすますの意味もよく分からないが、この雰囲気になぜか心が躍り、自分も飲み込まれそうになる。
――早く、彼女に会いたい。

 

自分のいつも使う駅に着いた頃には、もう空は真っ暗だった。
時計を見るとすでに19時になっている。
愛しい彼女は怒ってはいないだろうか。
急いで戻ろうと歩き出す。
白くなった道路には、いくつもの足跡。
そこに自分も跡をつけていく。
はらはらと頭や肩に白い雪がかかる。

そのさまに、デジャヴのように、ある光景が思い出されて、立ち止まった。
顔を上げて、降り続ける雪を見る。
まるで白い花びらのような雪を。

(兄上・・・)

白い花吹雪を思い出す。
今自分に降る雪は、花びらとは違い冷たいけれど。
それでも、思いが届くといい。

「兄上・・・」

自分は、こうして、守りたいもののために生きていると。

「兄上、私は幸せです」

手が冷たくなって、思わず入れたコートのポケットの中に、硬く四角いものを感じる。
小さなリボンのかけられた箱。

その存在に、今日という日のことを思い出す。
急いで家に帰らなければ。

小さな箱をしっかりと握る。
これは、友人の薦めで買った彼女へのプレゼント。喜んでくれるだろうか。

こうして「京」とは違う毎日を送るたびに、自分が、こうしてこの世界になじんでいくたびに、
彼女と共にあること、そして幸せで平和であるということを実感する。

白い雪に、ところどころ見えるイルミネーション。
たどり着いた自分の部屋には、明かりがついている。
子どものように、楽しい、嬉しい気持ちに満たされて、
玄関の扉を開けた。

そこに待っていたのは、やはり愛しい少女。

「お帰りなさい、頼久さん・・・」

<終>

 

 

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