>BACK

新年

 

空は暗く、冷え切った空気が顔や指先に突き刺さる。
その部分の冷えが、体を震わす。

普段ならもうすっかり寝てしまっている時間。
それでも、
今日はまだまだ元気に出歩く人が多い。

「わー、やっぱりすごい人だね」
人にぶつかりながらあかねは言う。
「ったり前だろ。こんな日に寝てたら勿体ないしな」
新たなる時の始まりの、厳かで、活気付く雰囲気に、心は浮き立つ。
あかねは、恋人である頼久と天真とその妹の蘭、後輩の詩紋の5人でカウントダウンをし、それからこうして初詣にやってきた。現在は日付が変わった、午前1時少し前。
神社は人々でごったがえし、参道には長蛇の列ができていた。
その列にならび、人にもみくちゃにされながら、ようやくお参りを終え、とりあえずの目的を果たした一行は、とりあえず一息つく。おみくじを引いたり、今年一年の幸せを願ってお守りを買ったり。
嬉しそうに大事にお守りをもつあかねに、天真はにやにやして言う。
「ま、だいたいお前の願い事なんて想像つくけどな。どうせ、『今年も頼久と一緒にいられますように』くらいなもんだろ?」
「ちょっ・・・なによぅ!」
図星だからか、顔を赤くしたあかねはむっとした目を天真にむける。
「お、たこ焼き発見!ちょっと買ってくるな!」
と逃げるように、天真はずらりと並ぶ屋台の中から、食べたがっていたたこ焼きの店を見つけ、さっさと買いに行く。
「ちょっとお兄ちゃん!私の分も買ってきてよ!」
まったく、勝手に行っちゃうんだから、とマイペースな天真に蘭はぼやく。
詩紋は、その二人のやりとりを見て、「ホント、天真先輩らしいね」とくすりと笑う。
「あかねちゃん、蘭ちゃんは何が食べたい?頼久さんも何かある?僕らも買いに行こうよ」
「うん、行こう」
そうして、また一歩進もうとしたところを、握っていた手にぐいっとひっぱられてその場に留められる。
ずっと手をつないでいた彼が立ち止まったため、あかねも足を止める。

「頼久さん・・・?」

ざわざわとした人ごみに詩紋と蘭が消えていく。

「神子殿・・・。」

立ち尽くす二人の脇をたくさんの人々が通りすぎていく。

人々のざわつきとは、時間の流れが違うかのように、そして、まるで隔離されたかのように、二人は静かに佇む。
頼久は、あかねをしっかりと見据え、口を開いた。

「あかね殿、この頼久、ずっとあかね殿と供におります。」
「頼久さん・・・?」

いつも、彼が自分に言ってくれるセリフ。
でも、それは二人きりの時で・・・。
こんなときに、急にどうしたのだろう?とあかねは少し紅くなりながら首をかしげる。

「あかね殿。神仏にお願いせずとも、どんなことがあっても、この頼久、あかね殿の傍にずっとおります。」

低く。ささやくように。
優しい目をした彼は、まるで、全ての想いを込めるかのように、そして、決意のように言い放つ。

「今年一年と言わず、この先ずっと」

ああ、そういうことか、とようやく納得したあかねは、気恥ずかしそうに応える。

「うん・・・」

頼久は、いつもすごいことをさらりと言うな、とあかねは思う。彼にとっては口説いているなんてつもりはないのだろうけど。
だからこそ、それが彼の本意だと分かるからこそ、本当に嬉しく幸せだと思う。
そして、自分も素直に、自分の本当の気持ちが言える。
あかねはまっすぐ見てくれる彼の目を見つめ返す。

「うん、わたしも、ずっと頼久さんの傍にいるよ」

つないだ手がまたしっかりと握られる。
二人の世界がまた、ゆっくりと動き出した。

――今年もよろしくね

 

>BACK