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「二人の思い出」
あかねは、カチカチと全く反応しない機械のボタンを押してみた。 (はぁ〜〜、やっぱ駄目かぁ〜・・・) この京に飛ばされて数ヶ月。 飛ばされるときに手にしていた学生鞄。その中にずっと仕舞い込んでいた、学生のみならず現代人の必需品。 それは、電源を入れっぱなしにして放っておいたため、すでに充電切れ。 何度電源ボタンを長押ししても、うんともすんとも言わない。 もともと、天真と詩紋と話し合って、ここに現代の影響を与えないほうがいいんじゃないか、ということで、学生鞄はずっと封印していた。 しかし、ふと思い出したのだ。 携帯電話の壁紙を彼氏とのツーショットにしていた友人。 女子高生なら、だれもがやりたがる(?)その行為。 (私も頼久さんとのツーショットを撮りたい!!) プリクラだって、写真だってないこの世界。 現代なら、恋人同士なら、一緒に写真をとって、それを常に持ち歩いたり、部屋の壁にぺたぺた貼ったり・・・・。 それができないこの世界。 そこに、カメラ付携帯電話の存在を思い出して、鞄から引っ張り出してみたのだが・・・。 (せっかく頼久さんと、付き合うっていうか、両思いっていうか・・・そんな感じなのに) あかねと頼久はすでに心を通わせている。この間、頼久から想いを打ち明けられ、あかねもそれに応えたのだ。そして、二人の仲は周知の仲となっている。 仕方なく携帯電話をまた仕舞い込み、ため息をつきながら部屋をでる。 「あーあ・・・。」 「なんだよ?」 急に声をかけられ、あかねは飛び上がる。 「あ、天真くん。」 ちょうど、あかねの部屋の前の庭を天真が通りかかったのだ。 「なに、溜め息ついてんだ?何かあったか?」 階段に座り込んだあかねの頭をくしゃっとなでる。これは、あかねが沈んでいるときの彼のクセだ。その行動にあかねも少し照れ笑いをする。 「ん、全然大したことじゃないんだけど・・・」 (そうだ、天真君にも一応聞いてみよう!) 「ねぇ、天真君!携帯電話ってどうした?」 「はあ?携帯?」 「そうそう!こっちに飛ばされて、一応現代のモノって仕舞っちゃったじゃない?」 「や、オレも仕舞ってあるけど・・・?」 「ね、ちょっと見せてもらってもいい?」 「?・・・何で今更携帯なんだよ?」 今まで全く表にでてこなかった携帯電話。もちろん、ふだんの会話で「携帯ないから不便だ」という世間話程度の話しはしていたが、実際携帯を出すとなると話がちょっと違う。 天真の質問にあかねが言葉に詰まる。 「えっと、その・・・・」 仕方なしに、あかねは天真に、事の次第を話した。 「あー、なるほど、そういうことか。」 天真は柱にもたれて空を仰ぐ。と突然、ぶっと噴出す。 「ちょ・・・何、天真君!笑わなくたって・・・。女の子はみんなしたがるの!」 急に笑われて、あかねは真っ赤になって反論する。 「いや、・・・そうじゃなくて・・・・、それはいいんだけどさ・・・」 笑いをこらえている天真を、あかねはムっとした顔で見る。 「いや、あいつがさ、携帯電話の壁紙に収まったとこ想像したら、笑えてきて・・・。どんなツラで写真に写るのかと思うと・・・・。想像できねー」 天真はニヤニヤ笑って答えた。 「もう、天真君!」 あかねにも、写真に写る頼久の姿は想像できないが、恋人が笑われていると思うと少し不愉快だ。 「悪い悪い。いや、それだとすると、例えオレの携帯が電源入っても無理だぜ?」 「なんで?」 「オレの携帯カメラついてないからな。」 「・・・・うそ?」 「嘘じゃねーよ。カメラ付じゃないんだよ。もう何年も機種変してないからな」 (カメラ付じゃない?天真君一体どんな携帯持ってるの!?) 「天真くん・・・今時カメラ付じゃないなんて・・・・」 あかねの信じられないような目を受けて、天真は投げやりになって逃げる。 「いいんだよ、オレは。携帯あんまり使わなかったんだよ(一匹狼だから)。詩紋にでも聞いてみろよ。」 ちょっとふてくされて去っていく天真の後ろ姿を見送って、あかねはすぐその場を離れる。 (そうだ、詩紋君にも聞かなくちゃ!)
「詩紋君!」 台所でお菓子を作っている詩紋を見つける。 「あかねちゃん、どうしたの?」 いつもより慌てた様子のあかねに詩紋は首をかしげる。 「ねえ、詩紋君、携帯電話どうした?」 「携帯電話・・・?」 あかねの質問にきょとんとした顔で答える。 あかねは、先ほどの天真とのやりとりを全部詩紋に話した。 「あ〜〜、カメラ付じゃないなんて、天真先輩らしいね」 天真の話をきいた詩紋は、「一匹狼だもんねー」とくすくすと笑う。 しかし、すぐにちょっと上目遣いにしゅんとなって言った。 「でも、ごめん、あかねちゃん。実は・・・僕、あの日携帯を家に忘れちゃったんだ。だからこっちに持ってきてないんだ。」 「え?」 あかねは、詩紋の言葉に一瞬がっくりする。 「そっか、じゃあ、しょうがないね。・・・・詩紋君ありがと。」 最後の望みも絶たれたあかねは、詩紋にお礼を言って台所を後にした。
(やっぱ、しょうがないのかな。) 自分を諦めるように説得しながら庭をとぼとぼ歩く。 (こっちの世界じゃ、カメラや写真がないのが当たり前なんだもん) 「おや、姫君、どうしたのかな。」 突然声をかけられ見てみると、ちょうど渡殿を歩く雅な姿が見えた。 「友雅さん。」 あかねも友雅に近寄る。 「憂えた表情もいいが、神子殿は笑っている方がいいね。」 「もう、友雅さん、またからかって」 「いやからかってなどいないよ?」 友雅は、ふふふ、と艶っぽい笑みを浮かべる。 「友雅さんは、みんなにそういう事いってそうだもん」 浮世の名の多い友雅のことだ。そういった色気はあちこちでふりまいていることだろう。そして、その友雅に恋する女性も多いことだろう。 「ねえ、友雅さん」 「どうしたんだね?神子殿」 「こっちの世界では、恋人同士って、こう、例えば会っていないときとかに、相手の人を思い出したり、二人が好き合ってるってことを現すのってどうしてるの?」 あかねは、先ほどからずっと思っていた疑問を友雅にぶつけた。写真のないこの世界。こっちの世界の恋人達はどうしているのだろうか。 「なるほど、神子殿の世界ではどうなのかい?」 「私の世界では、写真って、相手や二人の姿をそのまま絵のように残すものがあって、それが簡単に手にすることができるから、持ち歩いたり、部屋に貼ったりしてたの」 あかねは、なるべく伝わるように「写真」やら「プリクラ」やら「カメラ」やら「携帯」やら名詞を使わず説明する。 「・・・ほう、それは便利なものがあるのだね。」 ちゃんと伝わったか疑問に思いながらあかねは頷く。 「でも、こっちの世界にはないでしょ?」 友雅は少し考えるようにして顎に手を置いた。 「なるほど。神子殿は、私たちの世界でそれの変わりとなるものを探しているのかな。」 考えを見透かされてあかねは顔を紅くする。それを見て、友雅は目を細めて微笑む。 「私たちの世界では、文を大事にするかな。お互いの気持ちを書き綴った恋文だね。それが恋人がいるという証拠でもあるし、貰った文は大事にとっておいて、読み返したり持ち歩いたりする人もいるだろうね。」 「文だけ?顔は見たいと思わないの?」 あかねの質問に友雅はふっと真面目な顔になって、遠い目をする。 「私にはね、人を愛したことがないからね、分からないけどね・・・」 (神子殿以外はね・・・) 「ただ、顔が見たくなるから、その人の所へ出向くということもできるのだよ。そう、できれば一緒にいられる・・・。これ以上のことはないだろうね」 (だから私はこうしてここに来るのだよ・・・?) あまり藤姫を待たせるわけにはいかないから、ではね、と友雅はまた色気のある笑みを浮かべて渡殿を歩いていった。
(一緒にいる・・・・)
その夜、警護に来ている頼久の隣であかねは友雅の言葉を思い出していた。 「神子殿?」 いつもより口数の少ない愛しい神子の様子を頼久は気遣う。 (私は、こうして頼久さんといつも一緒にいるじゃない。) あかねは頼久の方をみる。じっと顔を見られた頼久は、少し照れながらも神子を心配する。 「神子殿?大丈夫ですか?何かおありになりましたか?」 (頼久さん・・・、またちょっと違う表情・・・) あかねは思わず頼久の服のすそを握る。 「み・・・神子殿?」 いつもと様子の違う何も言わない神子に頼久はうろたえる。 (違う・・・。不安なんだ・・・・) あかねは、自分が写真を残したいと思う理由を少しずつ理解してきた。 会っているときは一瞬、それでもこの幸せの気持ちはずっと心にあるはずなのに、この気持ちまで変わってくのではないかという不安。自分が変わってしまうのではないかという不安。頼久を知っていけば知っていくほど、一緒にいればいるほど、いろんな頼久が見える、うれしさと不安。そこに儚さを感じてしまう。 恋とは儚いものだ。 会っている一瞬一瞬をつかまえるように、幸せが消えないように、恋人たちは、何か形に残すのだろう。 「ねえ、頼久さん。頼久さんは、不安になったり・・しない?」 ようやく口を開いたことにほっとしてあかねを見る。 「不安・・・ですか?」 「うん、頼久さんの気持ちは信じてる。私も変わらず、頼久さんが・・その・・好きだし。でもね、なんか、一瞬一瞬が消えていくのが不安なの。幸せだからかな。会ってるときはいいけど、いつもずっと一緒ってワケにはいかないでしょ?私たちの世界にはね、お互いの姿をね、見てるままそのままをね、一枚の紙に画のように残せる方法があったの・・・。でもこっちにはないから・・・」 一気にいろんな整理のついていない気持ちを頼久に話す。 黙ってきいていた頼久は、ふっと目を細め、あかねの肩を抱き寄せた。 「神子殿。私も幸せすぎて不安になることがあります。これは夢ではないかと・・・・。」 ぽつりぽつり話し出す頼久の手の温もりを、あかねは感じる。痛いほど。 「それでも、私はあなたを想うことをやめられません。この気持ちは変わらないのです。そして、この気持ちが全てなのです。そう思うと、何も不安はございません。」 「頼久さん・・・」 あかねも逞しいその背に自らの手を回す。 「私の心はあなたのものです・・・」
儚い恋は永遠となる愛に変わる。 この二人にも遠からずそれは訪れる・・・・
抱きしめる手を緩め、頼久はあかねの顔が見えるように向き直る。 「神子殿、私には神子殿の世界にあるという絵のようなものは存知あげませんが、こうして神子殿とお会いしている時のこと、そして神子殿の笑顔は私の心にしっかりと焼きついております。」 あかねは、頼久の言葉に真っ赤になって俯く。 頼久は真面目な顔してさらりとすごいことを言う。本人は口説くなどとは意識せず、本心をそのまま言葉にしているだけなのだろうが。 「もう、頼久さんたら・・・・」 上目遣いに見上げると、微笑んでいる頼久の顔があった。 見つめ合う瞬間。 心が高鳴る。 「じゃあ、これも・・・ね?」 そう言って、頼久の頬に両手で触れると、軽く自分の唇を頼久のそれに触れさせた。 「!?・・・・神子殿っ!?」 弾くようにあかねの肩をつかんであかねの体を離す。 その姿を見てくすっと笑う。 (私の心にもいっぱい頼久さんを焼き付けよう)
また、ひとつ、またひとつと二人の思い出が刻まれていく・・・・
----------------------------------------------------------------- 散漫ですね。書きたかったことが書けず・・・・。結論も微妙になってしまいました。 もっとつっこんで書きたかったのに、頭が回転せず考えられませんでした。 ホント稚拙ですみません。読んでくださった方、ありがとうございました。(あすか)
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