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「少年少女」
「最近、あかねの様子がおかしい。」 「え?天真先輩、何か言った?」 金髪の少年は隣で階段に座って、行儀悪く足を開いて座っている天真を見た。 1回でちゃんと聞きとらなかったからか、天真はギロリと彼を見る。 元の世界にいたときから周りから近寄りがたく怖く思われていた、そのするどい睨みに少年はちょっとひるむ。 (天真先輩、何か今日も機嫌悪いな・・・) 元々、気性が激しい性格なのだが、最近特に機嫌が悪い。なぜか、ムスっとしている。 「え・・と、天真先輩?」 「だからっ、最近あかねのやつおかしくないか?な、詩紋そう思わね?」 イライラしながら、自分の膝をバンバン叩く。 「あかねちゃん?」 「そう、なんつーか、最近あんまり俺らと話さないし・・・・。元気なのか沈んでんのかよく分からねーし」 あー、もう、何なんだよ、っと天真はがしがしっと乱暴に頭をかく。 (そりゃあそうだよ・・・・) 詩紋は内心ため息をついた。 (天真先輩は、勘はいいけど、つきつめて考えないからちょっと鈍いんだよね) あかねは、変わった。それは詩紋にも分かっていた。とっくの昔に。 (それは、あかねちゃん・・・恋してるから・・・) あかねは、誰にも言わないけど、恋をしているのは確か。 (もともとかわいかったけど、ますます可愛くなってるもん。生き生きしてるし。) あかねに惹かれていた詩紋も心中は複雑だ。 恋をした少女の常である「少しでも可愛く見られたい!」という気持ちからか、最近あかねは、自分の身なりを少し気にしているようで、着物の柄や着飾り方も可愛らしくなった。なんといっても、変化が大きいのはその表情だ。よく笑い、とても元気だ。確かにそれは前と変わらない。しかしその顔はいつも紅潮していて、笑みにも女性らしい色気のようなものが含まれる。さらに時々、切なそうな・・・とても大人びた表情をするようになった。 ―――そして、その視線は、いつもただ一人の人物を追っていることを詩紋は知っている。 (天真先輩、本当に分からないのかな) あかねは、あんなに天真の相棒をいつも見つめているというのに。 (あかねちゃん、いつも頼久さんを見てるんだよね・・・) 「おい、詩紋聞いてるのか?」 黙ったままいる詩紋を不信がって天真は再び彼を睨む。 聞いている。そして、あかねの変化にも気づいている。しかし、ここは何も言わない方がいいだろう。 「聞いてるよ、天真先輩。・・・あかねちゃん、別にいつもと変わらないと思うけど・・・?」 「そうかぁ〜〜?」 (天真先輩が気になってるのは、あかねちゃんが変わったってことだけじゃなくて、本当は自分もあかねちゃんのこと好きなくせに、それに気づいてなくて・・・。今まではそれでよかったけど、均衡が崩れてきたことに焦ってるんだ、きっと・・・) あかねに惹かれている詩紋にとっても、そしてあかねのことを考えても、この話題はやっぱり、とりあえずそっとしておくのが一番良い。男女の恋愛ごとは、変に引っかきまわすと大変なことになる。 争いを避ける性質な詩紋はどうにか逃げる方法を考える。少し考えあぐねた末、ばっと立ち上がる。 「あ、そういえば、僕女房さん達に、おいしいおはぎの作り方を教えなきゃいけなかったんだ!ごめん、天真先輩、僕行ってくるね!」 「あ、おい詩紋!」 そそくさとその場を去る詩紋を見送るハメになった天真は腑に落ちないままその場に一人残された。 (なーんか、しっくり来ねぇ・・・。こうなったら、あかねに直に聞いてみるか) そう思い立って、あかねの部屋のある西の対の屋へ向かうことにした。 「あかねのやつ・・・。何か最近気に入らねーんだよな。」 天真はぶつぶつ良いながら、広い貴族の庭を歩く。 と、ちょうど左大臣家の娘、藤姫の部屋の前あたりで、長身の人影が見えた。地の青龍である天真の相棒、天の青龍の源頼久だ。彼は背が高いだけによく目立つ。しかし、きっと目立つのは背のせいだけではないだろう。武士としての肉体的・精神的強さが体中から染み出ている。 頼久は、龍神の神子を主と仰ぐだけあって、ほとんど龍神の神子であるあかねについて回り、その身を守っている。たいていあかねの傍には彼が控えていることが多い。 「おい、頼久。あかねは?」 「天真か・・・。神子殿は今、藤姫様とご一緒におられる。神子殿に何か用か?」 「いや、別に用ってわけじゃないけどさ・・・・」 天真は、頼久から目を逸らしてあさっての方を見て言った。 「なあ、あかねのやつ、最近様子がおかしくないか?」 その言葉に、頼久の眉がびくっと動く。 「神子殿の・・・様子が・・・?」 「いや、なんとなくなんだけどさ。オレの勘違いかもしれないし・・・」 詩紋に否定されてこともあって、少し弱気になりながら、頭をかいて頼久をちらっと見る。 頼久は一人で何か考え込んでいるようだった。 「神子殿の様子が・・・。何かおありになったのだろうか・・・」 頼久の眉間にしわがより、顔がどんどん厳しくなっていく。 「頼久・・・?」 彼の様子の変化に天真も少し怪訝な顔をする。 「天真。神子殿に何かあったのか!?」 急に噛み付かんばかりの勢いで、頼久は天真に迫った。 「お・・・おいっ、頼久!?」 厳しい顔つきで問い詰めてくる頼久に天真は一瞬面食らった。 (っていうか、ちょっと待て。オレが聞いてんのに、なんでコイツが問い詰めてくるんだ?) 神子大事の頼久にとって、神子になにかあれば一大事。天真の「様子がおかしい」というセリフを神子の身に重大な出来事があったと大きく勘違いしたようだ。 「神子殿に怪我・・・いやご病気でもされたのか?」 勝手に勘違いして、マイナスワールドにはまっている頼久に天真はげんなりする。 (う・・・うざい・・・) 「だーっ、そうじゃねぇよ!あかねは元気だよっ!そうじゃなくて・・・」 そう頼久に逆に怒鳴りかけた時だった。 「頼久さん。・・それに、天真君?」 藤姫との用事が終わったのか、部屋から出てきたあかねが二人に気づいてそのまま庭に降りてきた。 「あかね・・・」 「神子殿・・・」 あかねはいつものように明るい笑顔を二人に向ける。 「どうしたの二人とも?また何かケンカ?」 くすくすっと笑う神子に二人の男は少し小さくなる。 「いえ・・・」 「そういう訳じゃねーけど・・・」 「そうなんだ?」 あかねは、そのままにっこり笑いながら部屋へ戻ろうとする。それに頼久がそのまま従えるように連いて行く。そして、その後ろを天真が歩く。 「神子殿、どこか具合など悪くされていませんか?」 頼久は先ほどの天真の発言から神子を心配して問う。 「?どこも悪くないですよ。元気ですよ。」 そう言って、あかねは頼久の横に並びながら、少し頬を染めて微笑む。 それを見ていた天真は、なんか面白くない。 先ほどからの気持ちがまたぶり返す。 (やっぱ、なんか変だ、あかねのやつ。なんだよ、あんな笑顔頼久に向けやがって・・・) そこで、はた、と天真は何かに気がついた。 前を歩く二人を見る。 心の底から沸き起こる独占欲と嫉妬。 (あかねが頼久とあんな顔で話しているのが気に食わない) (あかねを守ってきたのは、ずっとオレなんだ・・・) 天真の頭の中で、一つ一つ思考がつながっていく。 (あいつを守るのはオレなんだ・・・・!) そのとき、何か心の中で弾けた。 自分の気持ちに気がついた瞬間。 ずっと心の中にあった灰色の気持ちに気がついた時、 17歳の少年の恋が始まった。
------------------------------------------------------------------------- 天真のお話・・・。天真はB型ということで、B型って基本的に物事を深く考えないので、結構鈍いんですよね。(と自分がそうなので、そう思っているんですが) 私の中での形としては、頼久×あかね←天真で嫉妬バチバチとかってのはちょっとツボだったりします。でも今回はあんまり頼久と天真がライバルになってないので・・・もうちょっとしっかり書けたらなぁと思います。読んで下さった方ありがとうございました。(あすか)
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