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あなたに届け!

 

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「あかねちゃん」
熱心に陳列された品々を見ていたところ、急に背後から声を掛けられて、あかねは反射的に手に持っているものを隠そうとする。
振り返ると、金色の髪をした少年が立っていた。
「詩紋君・・・?」

学校帰り。一人で寄ったのは帰り道から少し外れたところにある雑貨屋。ここは、あかねのお気に入りの雑貨店のうちの一つ。
ナチュラルな雑貨から、キッチン用品、バスグッズ、グリーンアイテム、キャンドル・・・などなど女の子が好きであろう店だ。

「詩紋君・・・どうしたの?」
偶然出会った後輩に思わず質問する。男の子が一人で訪れるには、ちょっとめずらしい感じのお店だが、実際かわいらしい後輩はこのお店に違和感なくなじんでいた。
「うん。寒いから、グラタンとか作りたくなって、いいお鍋がないが見にきたんだ。あかねちゃんは?」
詩紋は無邪気に近寄ってあかねの手に持っているものを見ようとする。
「あ・・・え・・・と。」
買い物の内容を見れば、すぐきっとバレてしまうだろう。悪いことではないが、少々恥ずかしい。
「あ・・・ラッピング用品?もしかして・・・バレンタイン?」
「うん・・・そう」
手にしているのは、ハート型の箱とリボン。
「作るんだぁ〜、頼久さんでしょ?喜ぶよ、絶対!」
頼久の名が出たことと、詩紋が言ってくれたことが嬉しくて、あかねは顔を朱に染める。

ただ買うだけでは、何か物足りない。
バレンタイン当日の14日も含めて、イベントごとはその日だけでなく、準備期間も楽しいのだ。
頼久のことを考えながら、チョコレートの材料買って、作って、そして渡す。
その全てがバレンタインだ。
自分の想いをしっかりと確認して、そして余すところなく彼に伝えるために。

「バレンタイン、初めて手作りにするから、ちょっと自信ないけど・・・」
「はじめてなんだぁ。じゃあさ、一緒に作るのはどう?」
「えっ!?いいの?」
詩紋の趣味は料理。そして、レパートリーも広く、かなりの腕前だ。初めて大事なバレンタインで菓子を作る者にとって、この申し出はとってもありがたい。
「うん、一緒に頼久さんのために作ろうよ」
「よかったぁ。やっぱりちょっと不安だったの。失敗したのを渡したくないし。」
詩紋が一緒ならすごくいいものができるだろう。この先の光が見えてきて安堵と嬉しさがこみ上げる。

バレンタインその日までもう少し。

楽しみな気持ちと、ちょっとした心地いい緊張感が体を走る。

女の子にとって、特別な日。
その日までに、恋する女の子は、いっそう可愛くきれいになる。

(早く、頼久さんに渡したいな)

頼久が喜んでくれるかどうかではないかもしれない。

ただ、自分の持ってる全てで気持ちを伝えたい・・・

「大好き」
という気持ちを・・・

<続>

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