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あなたに届け!(2)

 

――女の子ってかわいいな

調理道具を用意しながら詩紋はそう思う。
横で、お菓子の本を見てはしゃぐあかねを見て。

――頼久さんのためなんだろうな

好きな人のためにワクワク楽しそうにしている女の子。
それはきっと、本当は大好きな人のためじゃなくて、大好きな人にかわいい自分を見てもらいたい・・・ってためなんだろう、と詩紋は思うけど。
それでも、そうして好きな人にかわいい自分を見てもらおうと努力している姿は、本当に女の子を感じさせ、かわいいな、と思う。

「詩紋君、どれにしよう〜、ふつうにチョコつくるだけじゃ・・・物足りないよね。頼久さんだし、ちょっとビターな感じの方がいいかなぁ〜」
あかねの意識はすべて、恋人である頼久に向けられている。
今も、頭の中で彼を想像していることだろう。
そして、良い出来のお菓子を想像し、その日の段取り、自分が彼に渡す所、彼の反応・・・
全てを想像して楽しんでいることだろう。

――女の子は楽しそうだな

そうしてはしゃいでいるあかねは、とてもキラキラ輝いてみえた。
そんなあかねを手助けできるのはうれしい。

「じゃあ、フォンダンショコラとかどう?できたてがおいしいお菓子だけど、中がトロリとして、ここをちょっと大人な感じにビターにすればいいんじゃないかな。」
「え、これ!?難しくなぁい?」
本をまじまじと見つめるあかね。それでも、作ることができたらちょっと特別っぽくなるんじゃないか、すごいんじゃないかという期待も垣間見える。
「大丈夫だよ、そんなに難しくないから。」
「本当!?じゃあ、これにする。よろしくお願いしますっ!」
にっこりと笑うあかねに詩紋は嬉しくなる。
――女の子は確かにかわいいけど
――やっぱりあかねちゃんはかわいいんだな
詩紋は頼久がうらやましいと思った。
もともとあかねにはちょっと魅かれていたし、だから余計にそう思うけど、
ものすごく大切にしている彼女がいて、その彼女が、自分のためにかわいくなって・・・
頼久とあかねは本当にいい関係だと思う。
(でもこの二人ってほんとラブラブだな。頼久さんはホントあかねちゃん一筋だし)
くすりと内心笑って、「じゃあはじめよっか」とお菓子づくりをはじめる。
(こうしてまたあかねちゃんが手作りお菓子をあげたら、またさらにラブラブになっちゃうんだろうな)
そんな頼久を想像してみる。

――あかねが彼にお菓子を渡して・・・頼久は・・・

少し目を潤ませて、心から喜んで「わたしのような者のために・・・。」としみじみ浸るかも。
そして真面目にいつものちょっと聞いてて恥ずかしいようなセリフを言うかも。
もしかしたら、想いが込上げて、「あかね殿!」ときつく抱きしめるかも。

分かりやすくて、それがおもしろくて顔がにやけてしまう。
そんな詩紋を見て、「なあに?詩紋君どうしたの?」とあかねは不思議そうにケーキの素をつくっている。
「ううん、頼久さん、喜んでくれるといいね」
ちょっとごまかしを含めた詩紋の言葉だったけど、あかねは素直にとびっきりの笑顔になる。
「うん!」
(恋する女の子ってやっぱりかわいいな)
詩紋はそんなあかねを見てちょっぴり幸せな気分になった。

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