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あなたに届け!(3)

 

明日はバレンタイン。
自分にとっては、そんなに重要なことではない。
(あえて言うなら義理ばっかだけど・・・お父さんと、お兄ちゃんと、詩紋君と・・・)
「さて、あしたの授業は」と鞄に教科書、ノート、そして日曜日に買ったチョコを用意する。

日曜日。
蘭は久しぶりにあかねと買い物した。
(あかねちゃん、いっつも休みの日は頼久さんといるから、なかなか遊べないのよね)
手元のチョコ3つを見て思い出す。蘭はデパートの特設コーナーでいくつかのチョコを買った。
あかねと一緒に有名ショコラティエや、GODIVA、ホテルもの・・・などのチョコを試食しながら。
このときは、チョコを選ぶのも楽しみだけど、なんといっても試食が楽しい。
ここぞとばかりに普段あまり食べないチョコが楽しめる。
ただ、やはり高いチョコが多いので、義理ばかりしかない蘭は、結局一箱500円ほどのものばかり買った。

(そういえば、あかねちゃんはあの時チョコ買わなかったけど・・・)
あかねは必ず恋人である頼久に渡すだろう。しかし、あの時買わなかったということは、

(作るんだ)

人事なのに、すこし心が浮き立つ。
女の子にとって、好きな人のために準備してがんばるのは楽しい。
(あかねちゃん、いいなぁー)
二人の関係はラブラブすぎて、ちょっと見てて恥ずかしいとこもあるけど、やっぱりあんなに大好きな日とに大事にされているのはうらやましい。
(・・・てことは)
ふと待てよ、と蘭は思いとどまる。
明日はバレンタイン。あかねは頼久にチョコを渡しにいくだろう。
ということは、
(明日は一緒に帰れないんだぁ、残念!)
当然、あかねがチョコを渡しに行ったら、その後二人はずっと一緒、二人の世界だろう。
(だいたい想像ついちゃうのよね)

蘭は明日の準備をし終えて、部屋を出る。
(あんなかわいいあかねちゃん、頼久さんが離すわけないじゃない)
そう、そもそも京にいた時からずっとべったりあかねにくっついていた。
神子殿を守るためと言いつつも、なんだかんだ言って、あかねの傍を離れないことで、他の男を寄せ付けないようにしているようにしか、蘭には見えなかった。
(頼久さんてああ見えて、意外と独占欲強かったりして・・・)
頼久とは、それほど親しいわけではない、と蘭は思っている。
彼の無口な性格がそうさせているのだろうとは思うけれど、それほど接点もないので、みんなで集まるときくらいしか顔を合わせないから、実際どんな人物なのかはっきり言ってよく分からない。
ただ、あかねに心底ほれていて、あかねには弱いということだけ分かっている。
(あんまりしゃべらなくて、静かっているか、クールそうだけど・・・、意外と内は熱かったりして。)
確かに、あかねの為となったときには、声を荒らげたり男らしく戦っていたりした。
(絶対そうだ。内に情熱を秘めてる人なんだわ。だから、あかねちゃんへの気持ちがすごいんだ!)

思考をめぐらせながら、階段に向かって廊下を歩いていると兄の天真の声が聞こえてきた。
電話をしてるらしい。
「は?手作り?あいつもよくやるなぁ。くっそ、頼久のやつ!」
バレンタインの話だろうか。話の筋からすると、あかねの話だろう。
電話の相手は誰だろう。詩紋だろうか。
「まー仕方ねえな。あかねからは義理チョコで我慢するかよ・・・くっそ、頼久のやつ〜〜」
あかねに惚れていた天真は、今でも二人を応援しながら、ときどき複雑な気持ちになるらしい。
(あれ・・・?)
蘭はふと思った。
あかねはあの日、チョコを買わなかった。
ということは、
(義理無し!?)
蘭はそのまま家の階段を下りていく。
天真の笑い声が遠くなる。
(かわいそうなお兄ちゃん・・・)

分かってはいたけど、
やっぱりあの二人の関係は強すぎて
なかなか入るスキがないらしい。

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